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写真編集まで呑み込んだDaVinci Resolve 21——Blackmagicが描くメディアの未来

写真編集まで呑み込んだDaVinci Resolve 21——Blackmagicが描くメディアの未来

2026年のNAB(全米放送機器展)を前に、Blackmagic Designが映像制作ソフトの大型アップデート「DaVinci Resolve 21」を公開しました。CEOのグラント・ペティ氏による2時間半を超えるプレゼンテーションは、新製品の紹介にとどまらず、同社が描くメディア産業の未来像そのものを示すものでした。パブリックベータが先行して配布され、実機はNABの会場で披露、正式版は6月3日にリリースされています。

今回の最大の特徴は、これまでの動画編集・カラーグレーディング・VFX・オーディオという4つの柱に、「写真(静止画)編集」という第5の柱が加わったことです。さらに、AIツール群「DaVinci Neural Engine」の深い統合、Apple Vision Proを見据えた没入型(イマーシブ)制作への対応、そして100GイーサネットとSMPTE-2110規格による放送の完全IP化まで、いま進行している複数の大きな潮流を、ひとつのエコシステムにまとめ上げようとしています。

写真編集という第5の柱

新設された「フォトページ」は、写真の管理から現像、グレーディングまでを担う専用ワークスペースです。ハリウッドで業界標準となってきた同社のカラーエンジンを、そのまま静止画に適用できるようにした点に意味があります。従来の写真編集ソフトがレイヤーベースの調整を採るのに対し、DaVinci Resolveは映像と同じノードベースの処理を写真へ持ち込みました。プライマリー補正、カーブ、Power Window、クオリファイアーなどを組み合わせ、画像の特定の領域に異なる補正を並行してかけられます。共有ノードを使えば、ひとつのルックをアルバム全体へ一括適用し、一部の変更を関連画像に即座に同期することもできます。処理はすべて非破壊で、元の解像度やアスペクト比を保ったままトリミングが可能です。

対応フォーマットも実用的です。主要メーカーのRAWにネイティブ対応し、その範囲はベータの進行とともに広がっています。Adobe Lightroomのカタログを直接読み込む機能も備え、乗り換えの障壁を下げました。アルバム全体を俯瞰する「LightBox」ビュー、星評価やフラグ、カラーラベルによる絞り込み、SonyやCanonのカメラをつないで撮影しながら取り込むテザリング撮影にも対応します。作ったアルバムは、カットページやエディットページにタイムラインとして連携します。月額制への不満を抱える写真家にとって、これは現実的な乗り換え先になり得ます。

AIが変えるポストプロダクション

Studio版に載る「DaVinci Neural Engine」は、これまで手作業だった工程を大きく自動化します。劣化した映像を高精細に補正する「AI UltraSharpen」、パンや高速移動で生じたブレを解析して描き直す「AIモーションブラー除去」、シーンの深度を読み取って任意の場所にピントを合わせ直す「AI CineFocus」など、撮影時の失敗を後から救済し、新しい表現も生み出せます。人物まわりでは、スライダーひとつで年齢を増減させる「フェイス年齢変換」、目や鼻のプロポーションを微調整する「フェイス形状調整」、肌の質感を保ったままシミやニキビを目立たなくする「シミ除去」が加わりました。撮影時のカチンコをAIが読み取ってメタデータ化する「AIスレートID」、被写体やセリフのキーワード、特定の人物の顔まで検索できる「AI IntelliSearch」、わずか10秒ほどの音声サンプルからナレーションを生成する「音声ジェネレーター」もそろい、後処理の流れを根本から変えていきます。

各ページの強化とFairlight Live

既存ページの強化も大規模です。VFXを担うFusionには、定評あるサードパーティ製ツール群「Krokodove」が統合され、多数のモーショングラフィックステンプレートが標準で使えるようになりました。Web向けのLottie形式やHTMLベースのOGraf形式にも対応し、外部で作ったアニメーションをそのままタイムラインへ置けます。ピクサー由来のUSDツールセットも更新されました。カラーページには、ひとつのタイムライン上でHDRとSDRなど複数の納品形式を同時に管理できる「MultiMasterトリム」が加わり、被写体を自動で切り抜くMagic Maskには再生負荷を抑える「レンダリングして置き換え」が追加されています。

とりわけ大きいのが、オーディオ系の新アプリ「Fairlight Live」です。これは専用ハードに依存してきた放送用ライブミキサーを、完全にソフトウェアで置き換える製品です。macOSとWindowsで低遅延に動作し、コンピュータの処理能力に応じて数百から数千ものチャンネルを扱えます。ステレオやサラウンドはもちろん、Appleの空間オーディオ「ASAF」にも対応し、SMPTE-2110のIPインターフェースやATEMスイッチャーと連携します。ポッドキャストの小規模な配信から、大規模なスポーツ中継まで、規模を問わず使える設計になっています。

専用ハードウェアと「二つの未来」

ソフトウェアの実力は、専用ハードと組み合わせると一段と引き出されます。マルチカムやスポーツのリプレイに特化した「Replay Editor」(約8万8千円)、両手操作を前提としたプロ向けの「Editor Keyboard」(約10万6千円)、コンパクトな「Speed Editor」、2画面を備えたカラー用の「Mini Panel」(約35万9千円)、そして最高峰の「Advanced Panel」(約522万8千円)まで、用途と予算に応じた幅広いラインナップが用意されています。多くのパネルには295ドル相当のStudioライセンスが同梱され、買い得感を高めています。

Blackmagicはこのアップデートを通じて、メディアの「二つの確実な未来」を示しています。ひとつは没入型メディアです。世界初のイマーシブ・シネマカメラ「URSA Cine Immersive」は、両目用のデュアル8K×8K RGBWセンサーを90fpsで動かし、16ストップのダイナミックレンジで180度を超える視野を捉えます。データは8TBのメディアモジュールに記録され、DaVinci Resolveは撮影から編集・カラー・空間オーディオ、そしてApple Vision Pro向けのAIVUフォーマットへの書き出しまでを、ひとつのパイプラインで扱えます。

もうひとつが、放送インフラの完全IP化です。100GイーサネットポートをもつURSA Cine 12K LF 100Gは、メニューを「SMPTE-2110 Live」へ切り替えるだけでライブスタジオカメラに変わり、非圧縮のIP映像を高いフレームレートでネットワークへ送り出せます。専用スイッチやコンバーター、IP対応スイッチャーと組み合わせれば、従来の放送局の画質を上回る「シネマティック・ライブプロダクション」が実現します。これを支えるのが大容量ストレージ「Blackmagic Cloud Store」で、撮影現場の素材がクラウド経由で同期され、遠隔地のエディターやカラリストがすぐに作業を始められます。

「クリエイティビティの民主化」という哲学

こうした技術と価格設定の背景には、創業者でありCEOのグラント・ペティ氏の哲学があります。氏はメルボルン郊外の公営住宅という、決して恵まれない環境で育ちました。リサイクルショップで部品を集め、学校のApple IIに休み時間ごとに飛びつき、図書館の本でプログラミングを独学したといいます。億万長者となった今も社内のコードを自ら書き、長尺の解説動画に自ら出演する技術者です。「世界で最も創造的な人々の多くは、実はとても貧しい環境から出発している」という確信が、才能ある若者が経済的な理由で表現の手段を奪われてはならない、という強い動機につながっています。

2002年、同社は最初の製品「DeckLink」をわずか995ドルで発売しました。競合がおよそ1万ドルで売っていた領域での、明確な価格破壊でした。現在もDaVinci Resolveの基本版は無料で提供され、高度なAIや立体視ツールを備えるStudio版でさえ295ドルの買い切りです。月額制のサブスクリプションが主流になるなか、Lightroomの代替となり得る「フォトページ」を載せたことは、コスト負担に苦しむ写真家や独立系クリエイターへの救済であると同時に、市場を取りにいく戦略でもあります。

ただしペティ氏は、今後について含みも残しました。Resolve 21へのアップデートは無料だと明言しつつ、将来は大型アップデートの一部に有償化の可能性があると、初めて言及したのです。多数のエンジニアチームを抱え、その維持がStudio版を買うユーザーの資金に支えられている、という事情からでした。とはいえ、295ドルはかつてハリウッドのハイエンド機材が要求した35万ドルに比べれば桁違いに安い、と氏が強調するとおり、「才能ある誰もが手頃な価格でプロのツールを使える」という根本姿勢が揺らぐ気配はありません。

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