
冤罪問題に真正面から向き合う - 周防正行監督『それでもボクはやってない』
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社会派監督としての新境地

2007年に公開された『それでもボクはやってない』は、周防正行監督が痛烈な社会批判を込めて制作した意欲作です。電車内での痴漢冤罪事件を題材に、日本の司法制度が抱える問題点を鋭く指摘し、観客に重要な問いを投げかけました。
リアリティを追求した緻密な脚本作り

本作の特筆すべき点は、実際の冤罪事件を徹底的に取材し、そこから浮かび上がった問題点を丁寧に描き出したことです。主人公の青年を演じた松山ケンイチの繊細な演技は、冤罪に巻き込まれた人間の苦悩と怒り、そして絶望を見事に表現しています。脚本は現実の事件をベースにしながらも、フィクションとしての物語性を高め、観客を引き込む力を持っています。
日本の司法制度への問題提起

周防監督は本作を通じて、99.9%という異常な有罪率を誇る日本の司法制度、特に「人質司法」と呼ばれる勾留制度の問題点を浮き彫りにしました。映画は単なる社会派ドラマを超えて、現代日本社会が抱える根本的な問題に切り込んでいきます。証拠の乏しい痴漢事件での逮捕から、取り調べ、起訴、そして裁判に至るまでの過程を緻密に描写し、観客に深い考察を促します。
社会に与えた影響力

本作は公開後、大きな反響を呼び、冤罪問題や司法制度改革について広く議論を巻き起こしました。日本アカデミー賞では優秀作品賞を受賞し、その芸術性と社会性が高く評価されました。周防監督は本作で、エンターテインメントとしての映画の枠を超えて、社会を変える力を持つ作品を生み出すことに成功しました。