
山本薩夫監督の映画作法 - リアリズムと社会性の融合
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若き日々の経験が育んだ映画観

松山時代に重松鶴之助や中村草田男との交流、伊丹万作に師事した経験、そして早稲田大学時代の左翼運動への参加は、山本薩夫の映画観形成に大きな影響を与えました。特に、PCLでのチーフ助監督時代に、弾圧に苦しむ新劇俳優たちを積極的に起用した経験は、後の社会派映画人としての姿勢につながっています。
リアリズムへのこだわり

山本監督の映画スタイルの特徴は、徹底したリアリズムにあります。これは自身の戦時中の経験や、社会運動への深い関わりから培われたものでした。特に『真空地帯』における軍隊描写は、自身が経験した佐倉連隊での体験が色濃く反映されています。ドキュメンタリータッチの撮影手法と、実在の場所でのロケーション撮影を組み合わせることで、作品に強い説得力を持たせました。
社会派映画の確立

独立プロ時代に確立した山本の社会派映画スタイルは、徹底した取材と現実への直視を特徴としています。『荷車の歌』での農村婦人からのカンパによる製作方式や、全国での移動上映など、製作・配給の面でも革新的な手法を取り入れました。また、宇野重吉や滝沢修といった新劇出身者を積極的に起用し、リアルな演技表現を追求しました。
技法の進化と深化

大手映画会社での作品では、社会派としての視点を保ちながら、エンターテインメント性との両立も図りました。『忍びの者』での新しい時代劇の確立や、『白い巨塔』における医療界の描写など、それぞれのジャンルに新しい表現を持ち込みました。晩年の『戦争と人間』三部作に至るまで、社会性とエンターテインメント性の融合を追求し続けました。