
戦後日本映画の傑作 ―― 吉村公三郎「眠れる美女」(1961)の世界
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川端康成原作の映像化

1961年、松竹が製作した「眠れる美女」は、川端康成の同名小説を原作とする意欲的な作品である。吉村公三郎監督は、原作の持つ官能性と哲学的な深みを、繊細な映像表現によって見事に映画化することに成功した。モノクロームの映像は、幻想的でありながら現実感を帯びた独特の世界観を作り出している。
視覚的演出の妙

本作における吉村監督の手腕は、特に視覚的な表現において遺憾なく発揮されている。静謐な空間の中で繰り広げられる物語を、長回しのショットと効果的な照明により幻想的に描き出している。特に室内のシーンでは、光と影の対比を巧みに用いることで、観客の想像力を刺激する独特の雰囲気を醸成することに成功している。
テーマと表現の深層

「眠れる美女」は、生と死、美と醜、欲望と倫理という普遍的なテーマを探求している。老いゆく身体と若さへの憧憬、見ることと触れることの関係性、そして人間の根源的な孤独といったテーマが、象徴的な映像表現を通じて深く掘り下げられている。吉村監督は、これらの重いテーマを、過度な説明や露骨な表現を避けながら、詩的な映像言語で描き出すことに成功している。
映画史における意義

本作は、日本映画史上において重要な位置を占める作品として評価されている。1960年代という、日本映画の表現が大きく変容していく時期に、文学作品の映像化における新しい可能性を示した点で画期的であった。また、官能的なテーマを品位を保ちながら描く手法は、後の映画作家たちにも大きな影響を与えた。吉村公三郎の代表作の一つとして、その緻密な演出と深い洞察は、今日でも高い評価を受け続けている。