
マンキーウィッツが引き出した名演技の数々:ベティ・デイヴィス、マーロン・ブランド、エヴァ・ガードナーとの創造的コラボレーション
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マンキーウィッツが引き出した名演技の数々:ベティ・デイヴィス、マーロン・ブランド、エヴァ・ガードナーとの創造的コラボレーション
ベティ・デイヴィスのキャリア復活を導いた『イヴの総て』

ジョセフ・L・マンキーウィッツは「俳優の監督」として知られ、多くの名優たちから最高の演技を引き出すことに長けていました。その代表例が、ベティ・デイヴィスとの『イヴの総て』における協働です。1950年当時、デイヴィスはワーナー・ブラザースとの長期契約を解消したばかりで、キャリアの転換期を迎えていました。40代に入り、かつてのような主演女優としての地位も揺らぎ始めていた時期でした。しかしマンキーウィッツの脚本を読んだデイヴィスは、これまで読んだ中で最高の脚本だと激賞し、マーゴ・チャニング役への出演を熱望しました。マンキーウィッツはデイヴィスの演技力と個性を完全に理解し、彼女のために書いたかのような複雑で魅力的なキャラクターを創造しました。撮影現場では、マンキーウィッツとデイヴィスは互いに深い敬意を払い合い、監督は彼女について「非常に協力的で、私の書いたセリフを一言一句変える必要もないと理解してくれた」と語っています。デイヴィスの強烈な個性を活かしながら、アン・バクスターやマリリン・モンローといった共演者たちの魅力も損なうことなく、絶妙なバランスで全体をまとめ上げました。結果として生まれたマーゴ・チャニングという役は、デイヴィスの代表作となり、彼女自身も「マンキーウィッツが私を墓場から蘇らせてくれた」と感謝の言葉を述べています。この作品によってデイヴィスは女優としての新たな魅力を開花させ、円熟期の名女優としての地位を確立したのです。
マーロン・ブランドの新境地を開いた『ジュリアス・シーザー』

マンキーウィッツのもう一つの功績は、若きマーロン・ブランドをシェイクスピア劇に起用し、彼の演技の幅を大きく広げたことです。1953年の『ジュリアス・シーザー』において、ブランドをマーク・アントニー役に抜擢したのはマンキーウィッツの大胆な決断でした。当時のブランドは『欲望という名の電車』などで見せた囁くような台詞回しで知られており、古典劇には不向きだという声も少なくありませんでした。しかしマンキーウィッツはブランドの潜在能力を見抜き、適切な指導によって彼が古典劇でも成功できると確信していました。撮影に先立ち、マンキーウィッツはブランドに英国の名優ジョン・ギールグッドを紹介し、シェイクスピア朗読の個人指導を受けさせる配慮をしました。ブランドは謙虚にギールグッドの教えを受け入れ、猛練習を重ねて古典的な台詞術を身につけていきました。撮影中、共演のジェームズ・メイソンとの間で演技スタイルの違いから緊張が生じた際も、マンキーウィッツは両者のプライドを傷つけることなく巧みに調整し、持ち前の気配りでチームワークを保ちました。完成した作品でブランドが披露したマーク・アントニーの演説シーンは圧巻で、批評家からは「これまで聞いた中で最も明瞭で力強いブランドの声だ」と絶賛されました。ニューヨーク・タイムズ紙は「今や偉大な才能が開花した」と評し、ブランドは本作で英国アカデミー賞主演男優賞を受賞しています。マンキーウィッツの慧眼と適切な演出により、ブランドは演技派俳優としての評価を不動のものとしたのです。
エヴァ・ガードナーの女優としての深みを引き出した『裸足の伯爵夫人』

エヴァ・ガードナーとマンキーウィッツのコラボレーションは、美貌だけでなく演技力も備えた女優としての彼女の真価を世に知らしめました。1954年の『裸足の伯爵夫人』の企画段階では、エリザベス・テイラーやジョーン・コリンズなど複数の候補が挙がっていましたが、マンキーウィッツは最初からガードナーを熱望していました。当時のガードナーは「世界一の美女」として人気を博していたものの、演技面では過小評価される傾向がありました。しかしマンキーウィッツは彼女の内に秘められた演技の才能と、役柄に必要な神秘性を見出していたのです。ガードナーは当時MGM専属でしたが、マンキーウィッツは自らMGMと交渉し、彼女のレンタル出演を実現させました。撮影はイタリアを主な舞台として行われ、私生活でフランク・シナトラとの離婚直後だったガードナーにとって、環境を変えて役に没頭する良い機会となりました。マンキーウィッツは現場でガードナーに丁寧に演技プランを伝え、彼女の自然な魅力と繊細な感情表現を最大限に引き出すよう演出しました。スペインの踊り子からハリウッドスターへ、そして伯爵夫人へと変貌を遂げるマリア・バルガスという複雑な役柄を、ガードナーは見事に演じ切りました。彼女は後年、「私の出演作で人々が真っ先に思い浮かべるのは『裸足の伯爵夫人』だと思う」と語り、マンキーウィッツとの仕事が自身のキャリアにおけるハイライトだったことを示唆しています。本作でのガードナーの演技は深みと説得力があり、彼女をスター女優から真の演技派女優へと成長させました。
名優たちとの信頼関係が生み出した映画史に残る名演技

マンキーウィッツが多くの俳優から最高の演技を引き出せた理由は、彼の脚本の質の高さと、俳優への深い理解と敬意にありました。彼の書く台詞は知的で機知に富み、俳優にとって演じ甲斐のある豊かなキャラクターを提供しました。実際、マンキーウィッツ作品に出演した俳優たちの多くがアカデミー賞にノミネートされたり受賞したりしています。ジョージ・サンダースは『イヴの総て』で助演男優賞を、エドモンド・オブライエンは『裸足の伯爵夫人』で同じく助演男優賞を受賞しました。ハンフリー・ボガートは『裸足の伯爵夫人』で落ち目の映画監督という異色の役柄を渋く演じ、新たな一面を見せました。ケイリー・グラントは『ピープル・ウィル・トーク』で善良だが変わり者の医師役に挑戦し、コメディとドラマの両方の要素を巧みに演じ分けました。さらに注目すべきは、マンキーウィッツ作品には後に大スターとなる俳優たちが端役で出演していることです。『イヴの総て』には新人時代のマリリン・モンローが小さいながらも印象的な役で登場し、観客の目を惹きつけました。マンキーウィッツは各俳優の個性と持ち味を的確に見極め、それが最大限発揮できるよう脚本と演出を調整するプロフェッショナルでした。俳優たちもまた、マンキーウィッツの才能と人柄を信頼し、彼の指示に従って最高のパフォーマンスを見せました。この相互の信頼関係こそが、数々の名演技を生み出した源泉だったのです。マンキーウィッツの現場は才能ある俳優たちにとって学びと飛躍の場であり、そこで生まれた化学反応は映画史に永遠に刻まれています。