岡本喜八監督「ブルークリスマス」 - 特撮なしのSF映画が描いた人間の恐怖

岡本喜八監督「ブルークリスマス」 - 特撮なしのSF映画が描いた人間の恐怖

異端者への恐怖 —— 青い血の物語

異端者への恐怖

「ブルークリスマス」は、1978年に公開された岡本喜八監督のSF映画で、倉本聰のオリジナルシナリオ「UFOブルークリスマス」を映画化した作品です。この映画は「スター・ウォーズ」が日本で公開された同年に製作されましたが、特撮映画を得意とする東宝があえて特撮を使わないSF映画として挑戦した異色作として知られています。

物語は、世界各地に出現したUFOを目撃した人々の体内の血液が青く変化するという現象から始まります。血が青くなった人々は、人を憎む気持ちや怒りの感情が喪失するという特徴を持っていました。しかし、この現象に対して各国政府は危機感を抱き、クリスマス・イブに世界的な規模で「青い血」を持つ人々を排除する計画を進めます。

主人公は、国防庁参謀本部の沖(勝野洋)と日本国営放送JBCの南一矢(仲代達矢)。沖は特殊部隊に所属し、「青い血」の人々への対処を任務としていますが、彼自身の恋人である西田冴子(竹下景子)もUFOを目撃し「青い血」になってしまいます。一方、南はUFOの実存を説いた後に失踪した兵藤教授(岡田英次)の行方を追い、各国政府による陰謀の実態に迫っていきます。

この映画は、表面上はSF映画でありながら、その本質は「異質なものへの排除」という人間社会の根深い問題を描いた作品です。「かつてヒトラーがそうであったように、異なった種族の血を根絶やしにすることで、自らの勢力を拡大せんとする政治家たち」の謀略を描き、人間の恐怖心と権力構造の問題を浮き彫りにしています。

岡本喜八と倉本聰の創造力 —— 製作背景と挑戦

岡本喜八と倉本聰の創造力

「ブルークリスマス」は、岡本喜八監督と脚本家・倉本聰というそれぞれの分野で才能を発揮していた二人のクリエイターの才能が融合した作品です。岡本喜八は「日本のいちばん長い日」「肉弾」などの代表作で知られる映画監督で、倉本聰は後に「北の国から」などのドラマで有名になる脚本家・演出家です。

製作当時は、「スター・ウォーズ」の大ヒットにより特撮SF映画が注目されていた時代でした。そんな中、あえて特撮に頼らないSF映画を作るという挑戦は、当時としては革新的な試みでした。しかし興行的には振るわず、「後に名画座などで上映されるたびに評価を高めていった遅咲きの傑作」と言われています。

製作過程では、脚本家の倉本聰が「脚本の改変一切不可」という条件を出し、岡本監督もそれに応じて撮影を進めました。日本国内だけでなく、ニューヨークやパリなど海外ロケも敢行されています。撮影は「春らんまん」の西垣六郎ではなく、「姿三四郎」の木村大作が担当しており、モノクロではなくカラー作品として撮影されました。

岡本喜八監督の多彩な作品群の中でも、この「ブルークリスマス」は特異な位置を占めています。彼の作品の多くがコメディ要素を含む娯楽性の高いものや戦争をテーマにしたものである中、本作はより思想性や社会性を強く打ち出した作品となっています。岡本喜八監督自身は、この作品を「特撮を使わないSF映画」というコンセプトで製作し、視覚的なスペクタクルよりも人間ドラマに焦点を当てました。

映像表現と音楽の融合 —— 岡本喜八の演出スタイル

映像表現と音楽の融合

「ブルークリスマス」における岡本喜八監督の演出スタイルは、彼の代名詞とも言える「テンポの良さ」と「細かいカット割り」が特徴的です。岡本は「100分なら平均1,000カット」というほどの細かいカット割りを得意としており、本作でもその手法が活かされています。

映像的には、ドキュメンタリータッチと劇映画的演出が融合しており、世界各地で起こる事件や政府の対応など、複数の視点から物語を描いています。また、岡本作品の特徴である「ユーモアとシリアスの融合」も随所に見られ、深刻なテーマでありながらもどこか皮肉めいた視点で描かれています。

音楽面では、岡本監督の多くの作品で音楽を担当してきた佐藤勝が本作でも音楽を手がけています。また、主題歌「ブルークリスマス」はギタリストのCharが担当しており、当時のレコード・シングルとしても発売されました。この曲は映画の雰囲気とマッチしており、作品のタイトルと音楽が強く結びついた作品となっています。

映像と音楽の融合に加え、本作では俳優の演技にも工夫が見られます。主演の勝野洋と仲代達矢は全く異なるタイプの演技を見せており、それぞれの役柄に合わせた演出がなされています。特に、「青い血」になってしまった恋人を持つ沖(勝野洋)の葛藤は、本作の中心的なドラマとして描かれています。

現代に響くメッセージ —— 作品の評価と影響

現代に響くメッセージ

「ブルークリスマス」は公開当時は興行的に振るわなかったものの、後の再評価によってその価値が見直された作品です。映画レビューサイトでは平均スコア3.6点(5点満点)と比較的高い評価を得ており、多くの映画ファンに支持されています。

本作の「青い血を持った人間を迫害、秘密裏に処理しようとする体制の恐怖」というテーマは、当時だけでなく現代にも通じるメッセージを持っています。異質なものに対する恐怖や排除の構造は、時代が変わっても様々な形で存在し続けており、そのことが本作の普遍的な価値を高めています。

また、「ブルークリスマス」は後の映画やアニメ作品にも影響を与えました。特に「新世紀エヴァンゲリオン」では「BLOOD TYPE:BLUE」が使徒を検知するコードとして使われており、作品のテーマである「血が青いというだけで不当に差別し謀略を図る人間の権力」という部分も踏襲されています。エヴァンゲリオンの監督・庵野秀明は岡本喜八の熱心なファンとして知られています。

本作は単なるSF映画としての側面だけでなく、「差別」や「権力」「恐怖」といった普遍的なテーマを扱った社会派映画としての側面も持っています。岡本喜八監督と倉本聰脚本家の才能が融合した本作は、日本映画史における貴重な作品として今なお多くの映画ファンに愛され続けています。

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