
『転校生』—大林宣彦が描く青春の瑞々しい記憶
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『転校生』—大林宣彦が描く青春の瑞々しい記憶
尾道の街を舞台にした不思議な物語

1982年に公開された『転校生』は、大林宣彦監督の「尾道三部作」の第1作目として知られています。広島県尾道市を舞台に、中学生の男女が体を入れ替わるという不思議な出来事を描いた本作は、ただのファンタジーに留まらず、思春期の心の葛藤や成長を繊細に描いています。尾道の坂道や寺院、瀬戸内海の風景が、物語に独特の情緒を与えています。
思春期の心理をリアルに描く演出

主人公の一夫と一美が体を入れ替わることで、お互いの立場を理解し合う過程が丁寧に描かれています。大林監督は、思春期特有の不安や興味、そして他者への理解が芽生えていく様子をリアルに表現するため、キャストとのコミュニケーションを密に取り、自然な演技を引き出しました。子どもたちの無邪気な笑顔や戸惑いの表情には、観客が共感しやすいリアリティがあります。
映像技法によるファンタジー演出

『転校生』では、独特な映像技法が随所に活かされています。スローモーションや独特のカメラアングルを用いて、異世界的な雰囲気を演出するなど、大林監督ならではの映像美が光ります。また、尾道の街並みを情緒的に切り取ることで、物語に郷愁を感じさせる効果を生み出しました。
大人になっても忘れない青春の記憶

『転校生』は、単なる青春映画ではなく、大人になっても忘れがたい思春期の記憶を呼び起こす作品です。体が入れ替わるという非現実的な出来事を通して、人が他者を理解し、自分自身を見つめ直す重要性が描かれています。公開から40年以上経った今も、世代を超えて愛される本作は、大林宣彦監督の人間への深い洞察と映像への情熱が詰まった傑作です。