みなさんこんにちは。NEXT ACADEMY Podcastへようこそ。今回のテーマは「スペシャルティコーヒー」です。豆のトレーサビリティ、焙煎という職人的な手仕事、そしてそこにAIをどう組み込むか。一人で事業を営む方にとって、差別化と再現性をどう両立させるかを考える回になりました。
喫茶店文化という土壌と、激しい競争
HAL:
日本スペシャルティコーヒー協会が設立されたのは2003年で、実際に一般へ広まったのは2015年頃、サードウェーブの本格到来と同時期だと言われています。日本にスペシャルティコーヒーが根づいた背景を、マサさんはどう見ていますか。
マサ:
日本人はコーヒーに喫茶店の歴史があるので、馴染みやすかったのかなと思います。ゼロから新しい文化を受け入れたというより、すでにあった土壌の上に乗った感じですね。
HAL:
一方で、その馴染みやすさは参入のしやすさでもあります。
マサ:
そうなんです。ライバルもすごく多いのかなと思っています。競合店がとても多い状況なんじゃないかと。土壌があるということは、同じことを考える人がそれだけいるということでもあります。
一人事業の経営基盤は、持続可能な利益率
HAL:
競争が激しい市場では、価格設定がシビアになります。マサさんが価格を決めるとしたら、どこを重視しますか。
マサ:
やっぱり持続可能な利益率にしていくことが経営の基本なので、そこは重視しなければいけないと思います。一時的に安くして数を集めても、続かなければ意味がありません。
HAL:
利益率以外に、経営の変数として気になるところはありますか。
マサ:
立地とか、従業員の数とかも問題になってきますね。原価だけの話ではなくて、そこに乗ってくる固定費をどう設計するか。一人でやるなら、その設計は特に重要になると思います。
焙煎という、差別化の核
HAL:
小規模の事業者では、自家焙煎を掲げて独自のプロファイルで差別化する例が多く見られます。マサさんもこの部分に関心をお持ちでした。
マサ:
特に焙煎のところは、みんなどうしているんだろうというのが気になっていました。仕入れる豆はある程度共通でも、焙煎は自分の判断が入るところなので、個性が出せる領域なんだろうと思います。
目指す味の方向―フルーティーで浅煎り
HAL:
もしご自身でプロファイルを設計するとしたら、どんな味を前面に出したいですか。
マサ:
フルーティーで浅煎りですね。豆の産地や品種の個性を引き立てるプロファイルです。焙煎で味をつくり込むというより、その豆がもともと持っているものを出す方向です。
HAL:
焙煎の現場では、生豆の水分値や温度上昇率といった数値を読み取りながらローストカーブを制御し、目的のプロファイルをつくっていくと説明されています。産地ごとに試し焼きをして記録を取り、狙った味が最も映える点を探していく作業になります。
マサ:
そうすると、それはかなり記録と反復の世界ですよね。
AIと焙煎データ―どこまで任せ、どこを自分の感覚に残すか
HAL:
まさにそこで、AIの導入余地があるとお考えでした。
マサ:
はい。温度や時間のデータを細かく取って調整していく世界なら、AIの導入の余地がありそうな気がします。
HAL:
実例はあります。韓国のStronghold Technologyは、焙煎機にAI技術を適用した最初のスタートアップとされています。またBellwetherの全自動焙煎機は、クラウド上に焙煎プロファイルのライブラリを持ち、遠隔でのロースト状況モニタリングや一件ごとの品質分析、複数拠点でのプロファイル同期に対応しています。プロファイルを共有すれば、どの拠点でも同じ焙煎を再現できるという発想です。
マサ:
面白いですね。ただ、僕がやりたいのは再現の自動化そのものというより、データを収集して、味のところのバリエーションを増やしていくことです。同じものを正確に繰り返すためだけにAIを使うのはもったいない気がします。
HAL:
再現性を担保する道具としてではなく、探索の幅を広げる道具として使う、ということですね。
マサ:
そうです。記録と再現はAIに任せられる部分が大きいと思います。でもその上で、どういう味をつくるかという方向づけは自分で持っていたい。そこが手仕事の残る場所なんじゃないかと思います。
今回はスペシャルティコーヒーを題材に、一人事業における差別化の考え方を伺いました。持続可能な利益率という経営の土台があり、その上に焙煎という個性の出せる領域がある。そしてAIは、再現を代行する道具であると同時に、試行の幅を広げる道具でもある―どこを任せ、どこを自分の手に残すか。この問いは、コーヒーに限らずご自身の事業にもそのまま当てはまるはずです。
それでは、また次回お会いしましょう。



